『どうした?何かあったのか?』


勇気をだして受話器ボタンを押すと、私の声を待たずして隼人からの第一声がこの言葉だった。

低くかすれてしまって、隼人じゃないみたいな声だけど、どこか安心するその優しい尋ね方は全然変わってない。


『…っ、ううん、別に何も。ただ、隼人の声が、聞きたくなって…』

『栗原、泣いてんのか…?』


隼人が心配してくれてるのは、私が普段の私らしくない返事をしてしまったからだよね。


……こんなことならもっと前から素直でいれば良かった。


そうしたら今の私の気持ちにも、気づいてもらえたのかな。


『あのね隼人。バレンタインのお返し、本当はすごく嬉しかったよ。なのにそっけない受け取り方してごめんね』

『……』

『それをずっと謝りたかったの…』


気がつくと服の下にポタポタと雫が落ちて、とっさに自分の頬を腕で拭う。


そして必死に一人嗚咽をこらえていると、耳元で隼人の優しげな声が響いた。


『俺はそんなの気にしてねーのに。俺の方こそ、ずっと気がかりにさせてごめんな』

『……っ』

『あとは?他にも何か俺に言いたいことある?』


他にも隼人に言いたいこと……


このとき、ラブレターの事が頭に浮かんだけど、返事を知るのが怖くて聞けなかった。