「!…妃由さん、」
「…!!」
あたしが腕を掴んだ相手は、なんと拓海くんではなく龍也くんだった。
…あ、あれ…その口調は、龍也くん!?
確か拓海くん、こっちに歩いて行ったと思ったのにな…。
「り、龍也くん…どうしたの?」
あたしが内心動揺しながらそう問いかけると、龍也くんが少し戸惑いながら言った。
「ど、どうしたの?って聞きたいのは俺の方です。歩いてたらいきなり腕掴まれて、どうしたの?なんて…」
「あっ、ご、ごめん…」
「もしかして拓海さんと、何かあったんですか?」
そう聞くと、首を傾げてあたしを見つめる。
その問いかけと視線に、あたしは龍也くんから視線を外して下を向く。
まさか龍也くんのことで言い合いになったなんて…言えないよ。
あたしはそう思うと、やがて龍也くんに言った。
「…ちょっとケンカしちゃった。拓海くんのこと、怒らせちゃって。今先帰ってったとこなの」
「あー…で、それを追いかけて腕を掴んだら、俺だった、と?」
「そうそう、」
そしてあたしが頷くと、龍也くんが少しの間黙り込む。
あたしが落ち込んでいることを、察知したのだろうか?
龍也くんはふとあたしの方を見遣ると、優しい口調で言った。
「…ではご一緒に、拓海さんに謝りに行きましょうか。」

