やがてようやく、一つの理由を思い出した。
あたしが拓海くんに恋をしたのは、入学式。つまり高校生初日で一目惚れだった。
あの時は、確実にその容姿だけに惚れた。
「なんて可愛い顔をしてるんだろう」って…。
でも…
その入学式から約一か月後。
少しずつ学校に慣れてきたある日、あたしは下校中にある人影を見つけた。
…その相手は、あたしと同じ学校の制服を着た“拓海くん”。
一年の時もクラスが違ってて、なかなか話す機会とかってなかったからあたしは少し近づこうと試みた。
けど、その行動はすぐに止まった。出来なくなった。
だって、そこにいた拓海くんは…小さな捨て猫にこっそりエサをあげていたから。
思わぬ光景にあたしが立ち止まっていると、やがて拓海くんはその場から立ち上がって言った。
「また来るからな、」
そう言って、猫の頭を優しく撫でてその場を後にしてしまった───…。
あたしはその一部始終を思い出すと、今度こそ、と自信を持って言った。
「わかった!」
「…え?」
「あたし、拓海くんの優しいとこが好き!」
「…優しい、か?」
「うん!」
あたしがそう言うと、拓海くんは眉間にシワを寄せて首を傾げる。
でも…そうだ。そうだった。
拓海くんは普段毒舌だけど、こう見えて本当は優しいのだ。
あたしはそう思うと、隣の拓海くんに寄り添った。
…───その真実はまだ、誰も知らない。

