【おまけ②】



あれは確か、修史さんと初デートをした日のこと。

あの日あたしと修史さんは二人で水族館に行って、その後公園であたしから告白をして、晴れて恋人同士になった。

で、その幸せを感じたまま、あの後はすぐ隣にある遊園地に行ったんだっけ。

あたしは独り何となく、その時のことを思い出していた…。


…………


「鏡子、何乗りたい?」


夕方の遊園地。

他のお客さんが少ない中で、ふいに修史さんがあたしにそう問いかけた。

実は、告白が無事に成功したあと。

「遊園地に行きたいです」と言ったあたし。

あたしは修史さんと、どうしても乗りたいものがあって誘った。


「…か、観覧車に乗りたいです」


あたしはそう言って、でもまともに修史さんの顔を見れなくて、視線をそのまま観覧車に向ける。

他の乗り物は、正直どうでもよかった。

この時のあたしはとにかく、修史さんと二人きりになりたくて。


「ん、じゃあ行こ」


あたしの言葉を聞くと、修史さんは快くOKしてくれて、あたしの手を優しく引いてくれる。

観覧車は並ばずにすぐ乗れて、わかってはいたけれど、いきなり密室で修史さんと二人きりになった。


…ああ、緊張する。

だけど、誘ったのはあたしだし、何か話さなきゃ。


修史さんのマンションに、二人きりでいるのとはまた雰囲気が違う。

向かい側に座っている修史さんを直視出来ずに、外の景色ばかりに目を向けるあたし。

すると、そんなあたしに修史さんが言った。


「…なんかさ、こういうの憧れるよね」

「え、」


こういうの?憧れるって?


ふいに出たその言葉に、あたしはやっと修史さんに目を向ける。

すると修史さんはもう既にあたしに目を向けていて、言葉を続けた。


「ほら、よく聞くじゃん。てっぺんきたらチューするみたいな。あれ憧れない?」

「!」

「俺は憧れるなぁ。あ、定番のジンクスとか信じてるわけじゃないけどね」


そう言って、少しビックリするあたしに向かって、優しい笑顔を向けてくれる。

一方、それを聞いたあたしは、まさかのその修史さんの言葉に一気に顔を赤くしてしまって。

…そんなあたしの表情の変化を、修史さんは見逃さない。


「……」


けどそんな修史さんには気づかずに、あたしはドキドキを抑えられなくて、独り考える。

…修史さんはもしかして、てっぺんでするキスを期待してるのかな。

そりゃあ、それなりの下心を持って観覧車に誘ったのはあたしなんだけど。

でも、こうして普通にしているだけでも緊張するのに……やっぱ無理だよ、無理。

そう考えている間にも、少しずつてっぺんに近づいてきてしまう。


…ドキドキ…ドキドキ…


ますます修史さんを直視できなくなって…胸が苦しい。

すると…


「…鏡子」

「!」


とうとうてっぺんまで近づいてきた時。

ふいに向かいから修史さんに名前を呼ばれた。

その瞬間、きた、と思ってしまったあたしは、修史さんを見ないまま返事をする。