「……大したことねぇの?んじゃ、これいらねぇな」


顔をあげた鈴谷はいつもの意地悪な表情をしてた。


なんのことかわからなくて首を捻ると、

下ろしていた手をあげて、持っていたものをあたしに見せつける。



「あぁっ!杏樹限定アップルシュー!」


「ふんっ、走って買ってきてやったけど、無事ならいらねぇか」


ぷらりーんと、シュークリームの袋をつまみ上げる鈴谷。


杏樹とは、この高校の近くにある小さな駄菓子屋の様なところ。


学生の溜まり場でもあるそこでは、"アップルシュー"なるものを売っていて、

中のクリームにリンゴの果肉が入っていて、とってもおいしいのだ。


「……ちょーだい」


「仮病人にはやらねぇ」


にやり、と笑う鈴谷をあたしは再度睨み付ける。


前言撤回、こいつはやっぱり優しくなんてないと思う。


ただの俺様野郎だ。


と、思っていたら


ポンッと手に置かれたのは、そのシュークリーム。


「?」


「お前のために買ってきたんだっつの、ばーか」


う。
なにを動揺してるの、あたし。


こんなの普通、最初からあたしのだもん。


「……半分こ」


「ん?」


「半分あげるっていってるの」


「日南ってイ、ガ、イ、に優しいんだなー」


「やっぱあげない」


「ごめんなさい」



あたしに怪我させたのコイツなのに。


だけど、ここに運んでくれたのもコイツ。


これ買ってきてくれたのもコイツ。



今、あたしの心を乱しているのも、
鈴谷雫だ。