「うっさいなー、日南は黙っとけー」


今度はあたしが鈴谷の手によってほっぺを潰されて話せなくなる。


「む、ぐ、おひ、しゅじゅや!はにゃせ!」


うまく喋れなくて変な言葉が出る。


それに鈴谷は吹き出すと、ぱっと手をはずした。


「にゃ、だって、にゃー、あの日南が」

くくくっと、こらえようともせず笑っている。


「鈴谷ってドSだよねー」


花凛もまた笑いっぱなし。


そんな笑っててお腹痛くなんないのかな。


「俺?全然!むしろ、ドMー」


鈴谷がドMだとしたら世界中の人々が、
ドドドドドドMぐらいになっちゃうよ。


そんなふざけた会話をしていると、予鈴が鳴った。


「あ、次、数学の準備しなくちゃ」


はぁ、と笑いつかれ、目に涙をためたままで花凛が立ち上がる。


「あ、そーだな」


鈴谷もあたしの席から離れ、教科書を取りに行く。


あたしは引き出しの中にいつも入れてるから取りに行かなくていい。


二人がいなくなり、あたしの周りが静かになると、ヒソヒソ話す声が聞こえた。



「鈴谷くん、こないだ雅ちゃんにキスしてたけど、やっぱ付き合ってんの?」


「えー、でも付き合ってる感じじゃなくない?」


「鈴谷くん、顔はカッコいいし、ちょっと狙ってたのにぃ~」


「でもやっぱ怖くない?」


なにが顔はカッコいいよ。


見た目だけで判断するやつらばっか。


あたしも最近までその部類にいたけど、それでも腹が立った。


鈴谷は優しいし、それにそんな単純な性格のやつじゃない。


もっと……、



「日南、なに難しい顔してんの」


「えっ!?えぇ、あ、なんでもない」


びっくりした……。

急に出てこないでよもう。


鈴谷は不思議そうな顔をしたあと、席に戻っていった。


と思いきや、


「日南」


「なに?」


鈴谷が自分のポケットを指差し、なにかを訴えている。


席がそんなに近いわけじゃないから、ちゃんと伝わってこない。


ポケット?


首をかしげながら、ポケットを探る。


「え……」

なにか小さな紙切れが入っていた。


これのこと?