「生徒会長 挨拶」

「はい」

生徒会長になって、早4ヶ月程。

中学校でも生徒会長をやっていたりと人前に出るのは慣れている。

目の前の台にファイルを置き、セリフを読む。

「今日は、朝早くお集まりいただきありがとうございます。
何故集めたかと言いますと、2年B組の鈴木ちはるさんが2年A組に昇格する事が決定致しました。
それでは鈴木ちはるさん、壇上にお上がり下さい。」

「はい」

色素の薄い髪を揺らし、ゆっくり壇上に上がってくるちはるちゃん。

顔が赤く、緊張しているのが伺えた。

「では、ちはるさんから一言頂きます。」

「えっと…、は…初めまして…。
A組に昇格させていただく、鈴木ちはるです。
っと…えっと…」

度忘れしてしまったのか大量の冷や汗をかき拳を強く握っている。

誰だって壇上に上がれば緊張するモノ。

違和感の無いよう堂々とちはるさんの隣へ立ち、ファイルの右下にある所を指差した。

ちはるちゃんは理解したのか急に笑顔になり、前を向いて再び一言を言った。

私はというと、今更後ろに下がるのも抵抗があるのでちはるちゃんの隣に胸を張って立っている。

「…以上です。」

「鈴木ちはるさん、ありがとうございました。
続きましては校長先生のお話です。
生徒会長よりお引き継ぎ申し上げます。」

笑顔で頷く校長先生の頭が眩しくてつい笑いそうになった。

しかしここは立場上駄目なので、無表情のままファイルを持ちちはるちゃんと壇上を降りた。

長ったらしい校長先生の話は脳をすり抜け、私はずっと勉強の事を考えている。

今度テストがある。長距離走もあるし、準備しとかなければならない。

溜息を飲み込んで、長ったらしい話を終えた校長先生にお辞儀をした。

「各自、クラスごとに解散してください。」

一気にざわめく体育館、ほとんどは校長先生の頭が眩しい話だろう。

ふと隣に居るちはるちゃんに違和感を覚えた。

ずっと、そわそわしている。

「…ちはるちゃん」

「キャッ…あっ、な、何ですか???」

女子らしい可愛い声を上げ、下から上目遣いで覗いてきた。

可愛い子は羨ましい。

「ずっとそわそわしているけど、どうしたの???」

「えっと…その…」

もごもごと口元を動かして手でスカートの裾を弄っている。

癖なのだろうか、左脚を右脚に擦り付けるようにくねくねさせている。

他の生徒達は私達を尻目に続々とそれぞれのクラスへ帰って行った。

残りは1年生と先生方だけだ。

「ちはるちゃん、一緒に教室戻りながら話そっか」

トイレだと悪いが言ってくれれば済む話。

微笑むと壇上の時のように笑顔を零し大きく頷いた。

犬みたい。

「で、ちはるちゃん。
さっきからそわそわしてどうしたの???」

「いや…あの…」

俯いてしまったちはるちゃん、私より低身長で目の前のサラサラした天然の茶髪に目を這わせる。

すると決心したのか顔を上げたちはるちゃんと目が合い、顔を真っ赤にしすぐ目を背けられた。

「もう、ちはるちゃん。
教室着いちゃうわよ???」

冗談のように笑うとリラックスしたらしくやっと口を開いた。

「………あの、私、愛美さんに憧れてA組にまで上り詰めたのです。」

予想だにしない言葉を耳にして、思考回路はシャットダウンしてしまいそうになる。

私が、憧れ???

「愛美さんのように、完璧な人になりたくて…」

髪の隙間から見えるほんのり薄いピンクと長い睫毛に目を奪われた。

私よりちはるちゃんの方が完璧だと思うが。

「私は完璧じゃないわ、ちはるちゃんの方が完璧よ。
後、私達のクラスでは呼び捨て、タメ口が当たり前なの。
それが同級生、友達として妥当でしょう???」

そう言うと綺麗な白い歯を見せて笑ったちはるちゃんは、校長先生より眩しかった。

「ねえ、ちはるちゃん。髪の毛綺麗ね」

「ありがとうござ…ありがとう。
毎日寝る前にママが梳かしてくれるの。」

まるで汚れを知らない無垢の少女、この世にこんな綺麗な人間が居たのかと思うと何故だか悲しくなってきた。

羨ましい、やっぱりちはるちゃんA組になる生徒だったんだわ。

教室のドアを開くと何人かが振り返った。

「そうなの、羨ましいわ、お母様から愛されているのね。
ちはるちゃんもきっと、愛情を知っているから皆を愛せるのだわ。」

「うん、だって私、愛美の事大好きだもん!!!」

広い教室の窓際にくっついて置いてある机と椅子に2人並んで座った。

野口先生が新しい子は生徒会長の隣が良いと配慮してくれたのだ。

「新しくクラスメイトになった鈴木ちはるさんだ。
仲良くしてやってくれ、と言いたい所だがこのクラスなら言わなくてもすぐ打ち解けられそうだしな。」

冗談混じりに笑う野口先生を見て、またクラスメイト達が笑っていた。

なんて良い循環なのだろうか、これこそが現代社会に必要なモノなのだ。

「ちはる~、一言」

「えっと…これから宜しく御願いします!!!」

机に頭がぶつかる鈍い音が乾いた空気に響いた。

一瞬の静寂の後大きな笑い声がこの教室を埋め尽くす。

「大丈夫かよ~!!!」
「ちはる面白~い!!!」
「絶対に仲良くなる!!!ちはる初めてなのに面白いもんっ。」
等と口々に言い、ちはるちゃんを歓迎のムードで包んだ。

私もつられて微笑んでいるとちはるちゃんが私の方を向き、左手をパーにして差し出してきた。

ハイタッチを促されているようだ。

仕方無い、と笑顔で告げて大きな音でハイタッチをする。

惜しみない拍手が、再びこの教室を包んだ。