「待ってて欲しい」



すると、俯いていた君が涙の溜まった眼をゆるりとあげた。


瞬きすれば零れ落ちてしまいそうなそれを隠すように再び顔を伏せた君は、振り上げた拳を僕の胸に打ち付けた。



「我が儘、です」

「我が儘だね」

「狡い」

「うん」

「帰って来ないかもしれないじゃありませんか」


ドン、ドンと拳が降り下ろされる度に、透明な滴がその白い肌を滑り落ちてゆく。


確かに無事に戻れる保証はない。いつになるかもわからない。


本当なら忘れてくれと言った方が君の為なのだろう。


だけどそんなの、戻ることを諦めたみたいで嫌だ。


僕は君を手放すつもりなんてないんだから他の男になんて絶対にやらない。


嫉妬の如く湧き上がる愛しさに再び振り上げられた手を握り、強引に僕の方へと引き寄せた。



「約束するよ。必ず戻る」



これは僕の我が儘。
君を縛り付ける、鎖


僕が僕であり続ける為の、鎖。