走るのをやめた途端あたしを下ろしてくれた。


「はぁ…、はぁ……。もう、追っ手は来ないでしょう。」


「ここ…は?」


下ろされたところは水が流れてて水を左右から囲むように短い草がたくさん生えてる。


「河原ですよ。」


「かわら…?聞いたことない。」



だってあたしが住んでた森の奥には河原なんてない。



それにあたしは昼間は日光の当たらないくらいところで過ごしてるし、夜は木に登ったりしてぼーっとしてるから全く知らない。


「記憶喪失ですか?もしかして…」


「記憶喪失…?何それ。生き物の名前?」


「違いますよ。記憶喪失は記憶がなくなる事です。今迄過ごしてきた事全て失うのです。」


全て忘れる…。


あたしも忘れたい。



「それってどうやったらなる?」


「頭とか強く打ったらなるのです。」


「そう…。ねぇ、人間。あたしの頭を強く殴って。」


「なんでいきなり…。それに僕は人間ですが、人間っていう名前ではありません。」


「早く殴って…。お願い…」


「駄目です。」


「じゃあ殺して…。」


「もっと駄目です。」


「もう、生きたくない。」


「貴女は声からしてまだ若いですね。若いうちに死ぬなんて駄目ですよ。命を大事にしなさい。」


「若い…?あたしはもう十分生きた。」


「十分って25歳くらいじゃないですか…」


「いいえ。あたしはもう200年も生きたの。楽になりたい。」


「に、200…?人間ならそんなに生きられない筈なんですが。嘘ついてるのですか?」


「あたし人間じゃないよ。蛇なの。」


「疲れてるのでしょう…。遅いから眠りなさい。」


人間はあたしに近づいてあたしの頭を優しく撫でた。


あたしは撫でたその手がとても暖かく心地よかった。


自然と眠りについた。