そんな吉田さんをちらっと見て、押尾さんが言葉を続ける。


「お前だけじゃないさ、安田。俺たちだって、散々、佐久間との間を邪魔するくらい愛ちゃんのことが好きだったよ。
こいつなんて、いまだに……なぁ?いい加減、ぶっちゃけちまえよ、吉田」


吉田さんが私に背を向けたまま、でも一瞬、ちらっと私を見て、また背を向ける。


「……好きだったよ。でも、俺は佐久間の隣で幸せそうな顔をしてる愛ちゃんが好きなんだ。と思う」

「吉田さん……」

「俺も好きだったよ、愛ちゃん。でも、気づかなかったろ?
愛ちゃんは悔しいくらい佐久間しか見てなかったよね」


口の端を上げて、目を潤ませながら押尾さんが微笑む。


目を瞑り、唇を噛んでいた安田が「行けよ」と呟き、今度は吉田さんの方へ振り向く。


「吉田さん!佐久間さんは今、どこにいるんですか?」

「多分、この時間は……浜松町駅に向かってる頃かな?
午後の便で、フランクフルトに発つと言っていたから」

「行けよ、杉原。コンサートが始まるまで後7時間。遅刻は許さないからな」

「安田!ありがとう!」



駆け出す私の背後から再び安田が大声で叫ぶ。



「杉原!」


振り返る私に向かって何かが飛んで来て、慌ててキャッチする。

車の鍵?


「事故るなよ!」


安田が今にも泣きそうな顔で手を振る。



ごめん、安田。

本当にごめん。


私はコクンと頷くと、鍵を強く握りしめ、出口に向かって駆け出した。