「吉田さん……」

「あいつ、今、日本に来てる。ドイツで開発した新薬の日本での認可を取るために」

「新薬?新薬って……何の?」


安田が吉田さんに詰め寄る。


「ALSの新薬だよ」

「なんで、吉田さんがそれを知ってるんですか?!」

「会ったんだよ、ドイツで」


やっぱり、課長だったんだ。

駆け出す私の前に安田が手を伸ばし、壁に手をつき、通すまいとしてる。


「それでも、ダメだ。行くな」

「安田……」


歯を食いしばってうつむく安田が声を振り絞る。


「これからコンサートなんだぞ。この日のために二人で頑張ってきたんじゃないか。
それに、みんな、待ってる。俺と杉原を……だから……」

「安田……」

「行かせてやれば?愛ちゃん、行きたがってるじゃん?」


押尾さんがドアの向こう側から姿を現す。


「お前が愛ちゃんを想う気持ちは分かるよ。だけど……」

「押尾さんに何が分かるっていうんですか?!俺がどんなに彼女を!」

「分かるさ。嫌って言うほど。なぁ?吉田?」


吉田さんの顔がかぁっと真っ赤になる。