私、課長とこんな二人みたいな素敵なカップルになりたい。

じんわりと涙が込み上げてくる。

「ありがとう。とぉちゃん、かぁちゃん。
手術、受けるよ。
でも、大丈夫だから。
自分でなんとかするから。
だから、このへそくりは二人に返すね。
二人で旅行にでも行って?」

「へそくりて……なんね?あんた、この包みは!!」


かぁちゃんの目がくわっと見開かれ、とぉちゃんのへそくりの入った封筒に集中する。


「お前こそ、なんね!300万てんなんてん、よぉそがん大金をおいの目ば盗んで……」


とぉちゃんがかぁちゃんのへそくり通帳を取り上げる。


「あっっ!!なんばすっとね!それはうちのへそくりたいね!!」


かぁちゃんがとぉちゃんの脇をクスグリ、通帳を奪回する。


もう、本当に、この二人は……。

呆れつつ、バッグを肩に掛け、玄関口に立つ。


「じゃ、行ってくる、ね?」


取っ組み合いの喧嘩を始めた二人が、一瞬、ピタリと動きを止める。


「行ってきんしゃい!」

「おお!たまには連絡ば入れろ!」


二人の今後をちょっぴり心配しつつ、家を後にする。

何度も自分自身に言い聞かせてきた言葉を、心の中で反芻する。

ダメだね、私。

何度も自分に言い聞かせて来たはずなのに、怯んで立ち止まってしまう。

今はもう、振り返らない。

とぉちゃんとかぁちゃんの想いを胸に顔を上げる。


前へ進むんだ。

そう……

前へ!

前へ!

前へ!

私は、決心を新たにし、また一歩を踏み出す。


遠くにとぉちゃんの断末魔の叫び声を聞きながら……。