「とぉちゃん……」


そうだった。

誰よりも独りぼっちだった課長。

独りにしてはいけない人だった。

自分が淋しいと言うより、私に淋しくないかと気遣ってくれる人。

私にはいつだって温かく迎えてくれる家族がいて……。

それに、課長はこうして私の気持ちを理解して、日本に帰してくれて……。

私……。

玄関わきに掛けておいたコートとバッグを急いでつかむ。



「ごめん!田吾作にぃちゃん、帰ってきたばかりのところ悪いけど、私を博多駅に連れてって!」

「えっ?!」

「今行けば最終には間に合うから」

「ちょ、ちょぉ、愛。帰ってきたばかりでなんば……」

「行かせてやれ」

「とぉちゃん……」

「うちからも頼むたい」

「かぁちゃん……」


玄関に立つ私にかぁちゃんがそっと通帳を渡す。


「うちのへそくりたい。300万あるけん。とぉちゃんには内緒で貯めとったけど、愛の手術に役立てんしゃい」

「かぁちゃん……」



なんて、似た者夫婦なのよ。