玄関の扉を開け、おばさんに出してもらったスリッパに足を入れる。


「おじゃましま……」


玄関から上がろうとした時、2階から聞こえてくるギターの音に足が止まる。


この曲は!


「すみません!ちょっと、上に行ってもいいですか?!」


音はノリの部屋の方から聞こえてくる。

階段の手すりに手を掛け、一段一段上りながらも切ない旋律が胸を打つ。


『おいはロック以外は好かん。でも、この曲は特別じゃ』


ノリはギター片手に窓辺に座ると、騒がしいロックはあまり好きじゃないという私にこの曲を作って弾いてくれた。

ギターを弾きながら無邪気にニカッと笑うノリの笑顔が瞼に浮かぶ。



ノリは、本当に死んだの?

……違う。

違ったんだ!

なんだ。

今までノリが死んだと思い込んできたことの方が夢だったんだ!

だって、よくよく考えてみれば私、ノリの亡骸とか見てない。

お葬式だって人伝に聞いただけ。


そう……聞いただけ。


それに、聞こえてくるこのフレーズはノリと私しか知らないノリのメッセージが込められたアレンジだもの。


ノリしか弾けない特別な曲だもの!