あ。


やばい。


なんか、奥田さんが椅子から立ち上がってこっちのドアに向かって歩いてくる気配を感じる。


急いでその場から離れようとするのに、足が……足が動かない。


奥田さんがもうすぐドアの向こう側にいる……



だけど……


コップを乗せたトレーを持つ手がカチカチと震える。



「佐久間、最後に一言だけ言っておく」


ドアノブがゆっくりと動く。


「女を不安にさせるような愛し方はするな」



目の前のドアが開かれる。


奥田さんの驚いた顔と、その奥にはやっぱり驚いたような課長の顔が見える。



「愛ちゃん……」


だめだ。


涙を拭うこともできないまま


私はただ


歯を食いしばって


それでも、流れる涙を堰き止めることができないでいた。