「……お伺いしてもいいですか?

佐久間課長のお父さんってどんな感じの方だったんですか?」


長い沈黙に困っていた私は、さっきの流れで会話が続きそうな共通の話題を何とか引き出す。


「繊細な男だったよ。

要君に良く似ていたな。

佐久間は、世界中を飛び回る優秀な商社マンで……。

語学に堪能で、頭の回転も凄まじかった。

それがある日、突然、会社を辞めたって奥方から聞いた時は本当に驚いたものだが……」



会社を辞めた?



「何で辞められたんですか?」


「ボランティアがしたいと言い出したらしい。

で、スパッと会社を辞めて、世界各地で井戸を掘り始めたときは、俺たちも驚いたよ。

でも……あいつらしいと言えば、あいつらしいな」


……井戸を……掘る?

変わったお父さん……。


「でも、亡くなったと聞きました。

もし差し支えなければお伺いしたいのですが……

何のご病気だったんですか?」


「それは……」


社長が考え込むようにうつむいた時、


「ALSだよ」

「課長!」


ぼぉっとした目で天井を見つめながら、いつの間にか目を覚ました課長が答える。