「安田……」

「NORIさんの死を乗り超えなきゃって……焦れば焦るほど喉が締め付けられてますます歌えなくなって……」

「歌ってたじゃない、この前は……」

「高低差があまりないバラードだったからなんとか。

無理して歌い続けて喉を痛めてから、この1年はもうまともに人前では歌ってない」

「そう……」


私達はずっと見つめあったまま、お互いの瞳の中にノリの存在を見てる。

安田が私に向かって伸ばしかけた手をすっと引っ込める。


「……もう寝よう」

「安田……。わがまま、言ってもいい?」

「ダメ」


安田は私に背中を向けると、ベッドに潜り込み掛け布団を頭まで被る。


「あの時、ステージで歌ってた歌、もう一度、歌ってくれないかな?」

「いやだ」

「歌って。なんか寝れなくて。聞きたい、安田の歌」


安田が布団から出て、上半身を起こす。

安田の真剣な顔が青白く月の光に照らし出される。


「……いいよ、歌っても。ただし、杉原さんを抱かせてくれるんならね」