「安田は何で歌手とかにならなかったの?あんなに歌、上手いのに……」


安田がびっくりしてる。


「何よ?」

「いや、そういう風に思ってくれてたなんて嬉しいなって思ってさ」

「あの時は……色々とムカついたけど、でも、歌は……まぁ、かなり上手いとは思ってたわよ」


安田は勉強していた手を止めると席を立ち、私の向かい側のベッドに腰を下ろす。


「歌が上手いだけのヤツなんて腐るほどいるよ。

それに、親父のライブハウスなんて、経営が安定しなかったからおふくろが苦労続きで……。

少しでも楽させてあげたいと思って、収入が安定してる証券会社に入ったんだ。

それに、やっぱりデビューするなら、高校を卒業するまでって期限を決めてたから。

でも……NORIさんが事故死したことできっぱり諦められた」

「なんで?ノリの事故とあんたのデビューが関係あるの?」

「あるよ。NORIさんが作曲とアレンジしてギターを担当して、僕がボーカルでデビューするって話しでイイ線行ってたんだ」

「じゃ……あんただけでもボーカルで……」

「歌えなくなったんだ」