「そう言えば、今日みたいな相場の時だったよ……。杉原君が、400億のミス発注をしたのは……」

「ああ!知ってます!私は高校生だったけど、由紀ねぇに電話貰ったときは、ばぁちゃんが『一家で首を括らんばいかん……』って言って、ナンマンダブってぶつぶつ言いながら、家族分の縄、結ってました!」

「なんだよ、ソレ!」

課長が肩で笑う。

「笑い事じゃないです。本当に怖かったですよ」

「でも、それを何とかしてしまうのが奥田さんの凄いところだよな……。

それに今日の相場で分かっただろう?

自分の声すら聞こえない怒号が飛び交う中……

ひどい時には、机の下に潜って片耳塞ぎながら電話にかじりついて注文とってさ」

「課長なんて今日は、多い時で5本同時に電話に出てビックリしました」

「めったにないけどね。そうなるとこっちも必死だよ」

「でも、あれだけ電話取ってよく注文を間違えませんでしたよね」

「まぁ、長年やってると自分の客のポートフォリオくらい(金融資産)は大方頭に入ってるから……」

今日の相場を振り返っているときに、注文した追加のおでんが来る。

「ところで……話しは変わるけどさ。お前、この仕事好き?」

突然の課長の質問に心臓がバクンと大きく脈打つ。