「どうした、義清」


 「ちょっとお腹の調子が……」


 「おいおい」


 義清は清盛を残し、体調不良を上役に伝えるとそそくさと持ち場を後にした。


 「すぐに戻りますので」


 そう告げて逃げるように立ち去った。


 もちろん仮病。


 行き先は……待賢門院藤原璋子の元。


 「義清どの! 今宵は得子の屋敷で警護の任務では」


 堀河に取次ぎを頼むと、驚かれた。


 「宴を抜け出してまいりました」


 「……」


 馬で暗闇を駆け抜けてきたのだろう、義清の額を流れる汗に堀河は気がついた。


 着るものには夜風の匂いが染み付いている。


 璋子に会いたいがために仕事を抜け出して、ここまで……。


 堀河は義清に気づかれぬよう、そっとため息をついた。