「私は誰かに優しく守られていないと、不安でたまらないの」


 はるか年上の女には思えない、まるで少女のように、璋子は義清の胸で甘えていた。


 「私を不安にさせないで。昔、院がしてくれたみたいに……私に優しくして」


 「もうその名を、口になさいますな」


 院、すなわち白河院の名を口にした璋子の唇を、義清は指で触れた。


 「この愛しい唇から囁かれる名は、これからは私の名だけであってほしいものです」


 次は唇で触れた。


 「……」


 璋子は未だかつて、義清の名を口にしたことがない。


 そばにいて優しくしてくれる男ならば、名などどうでもいいのか。


 名など記憶に留める存在とさえ、みなしていないのか。


 義清は少し寂しく感じていた。


 想いを遂げられさえすれば十分だと、最初は思っていた。


 でも今は、璋子の何もかもを手に入れたいと願うようになっていた。