「璋子さま」


 呼び止められたのに正直驚いて、義清は立ち止まった。


 一方的に注がれる愛に応える以外に、璋子が義清に何かを求めることはなかったから。


 「今日は、ずいぶん早く帰るのね」


 「雑務を残していまして……」


 とっさに言い逃れをした。


 そして薄暗い部屋の中、璋子の顔を見つめた。


 心細そうな表情を浮かべている。


 「あんなに私のことを好きだと繰り返していて、こんな寂しい夜に私を置き去りにするの?」


 「璋子さま」


 「そばにいて」


 予想外の璋子の言葉に、義清は驚きを隠せず立ち尽くす。


 「私のことを本当に好きならば……そばにいて」


 義清は恐る恐る引き返した。


 関係を持つようになってかなりの時が流れたけれど、常に一方通行の手ごたえのない愛に、むなしささえ覚えることがあった。


 それが今……。