戸を閉めて、堀河の存在を今はかき消したつもりだった。


 忠告も軽口で聞き流して。


 しかしこの夜に限っては、気持ちの切りかえがすぐにはできなかった。


 堀河の不安げなまなざしが、義清の心に痛みを残している。


 ……最初はただ、目的のために寝ただけの女だった。


 璋子の元へと手引きしてもらうには、そばに仕える堀河の協力が必要不可欠。


 共通の趣味である歌を悪用して、堀河に近づき、そして体を奪い。


 挙句自分に夢中にさせて、言いなりにさせ、ついには璋子の元へと導いてもらった。


 そして未だに、機嫌を取るため堀河とも関係は続いている。


 璋子と同時進行で。


 これまでの経緯を振り返ると、自分はなんて卑劣な手段を用いたのだろうと、義清は時折罪悪感に苛まれる。


 堀河の気持ちを利用しているのは間違いない。


 美しく教養のある女ゆえ、璋子のことがなくとも、堀河は自分にはもったいないほどの女だとは分かっているのだが。


 璋子を想う気持ちは止められなかった。