「何を考えているの、あなた。こんなことが発覚したらどうなるか、分かっているの?」


 「無論。院に知られれば私は……」


 「それだけじゃないわ。こんなこと噂になったら、あの子も……」


 北面武士にすぎない義清が、上皇の妃で天皇の母である女性の元に夜、忍び込んできたことが発覚すればただではすまないことくらい、重々承知だ。


 「身の破滅に繋がると知っていてもなお、待賢門院さまへの思いは消すことができなかったのです」


 「……」


 これ以上璋子の怯えた表情を見たくなくて、義清はさらに強く璋子を抱きしめた。


 「私がここに参ったのは、待賢門院さまに恋焦がれるゆえ。そして……、あなたをお救いしたかったから」


 「救う……?」


 「院や藤原得子のひどい仕打ちに何も感じず、このまま屋敷のなかでひっそりと暮らしていかれるおつもりですか」


 「私は帝となる男皇子を産み、妃としての役割を果たしました。あとはこうして、静かに余生を」


 「違う!」


 義清は璋子の言葉を遮った。