「あなたが心配なさっても、どうしようもないこと。第一璋子さまご自身が、そのようなことでお悩みになるお方ではありませぬゆえ」


 「周りの者を困らせたくないゆえ、何も気にしていないふりをしているだけではないのか?」


 璋子は鳥羽院の冷たい仕打ちをつらく思っていないと繰り返す堀河に対し、義清は強い口調で尋ねた。


 「義清どの」


 義清の態度の変化を察し、堀河は口をつぐんだ。


 「長年つらい思いをなさって、感情を表に出されるのをやめてしまわれたのでは? あきらめてしまわれたのでは? ……お気の毒なことだ」


 義清は勝手に、自らの中で璋子を悲劇のヒロインに作り上げていた。


 「堀河」


 そして不意に、堀河の手を取った。


 「これからも待賢門院さまに、忠節を持って仕えてくれ」


 「元よりそのつもりではありますが」


 「そして……。待賢門院さまが泣かれるようなことがあれば、この佐藤義清に伝えてくれ。この義清、待賢門院さまのためとあらば、たとえ微力ではあっても力をお貸ししたいと願っている」


 待賢門院藤原璋子の名を口にしながら、義清は堀河を抱きしめた。