「のん気に歌なんぞ詠んでいる場合なのかね。今年の夏には藤原得子どのが、鳥羽院のお子をお生みになる。待賢門院さまとその配下の方々は、心中穏かではないだろうに」


 清盛がこそっとつぶやいた。


 「こうやって現実逃避でもしていなきゃ、やってられないんじゃないの?」


 「確かにそうかもな」


 待賢門院に仕える女たちの美麗な装束、華やかな歌会の雰囲気。


 その背後に確かに存在している、何か形のない不安のようなもの。


 春の陽気の中、義清は確かに感じ取っていた。