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 また春が訪れた。


 桜が満開を迎えようという頃。


 久しぶりに義清は、待賢門院藤原璋子の屋敷の警護を命じられた。


 「間もなく満開を迎えるな」


 何年か前、はじめてこの屋敷に遣わされた時も、この桜は満開だった。


 あの時と同じように、今年も……。


 ふと考えた。


 (桜と言うものは、咲き始めた時はとても目に付くのだけど、散り始める瞬間というものに、なかなか気付くことはない……)


 なぜか寂しく感じた。


 こんなに見事に咲き誇るものが、間もなくすると散ってしまうと知っているから。


 「義清、なにそんなところにぼーっと立ってるんだ」


 近寄ってきた平清盛に肩を叩かれた。


 「一人花見か」


 「まあそんなところだ」


 「今度俺の家で、花見という名の飲み会をやるから、お前も来いよ」


 「たのしみにしているぞ。あ……」


 璋子の屋敷では、今年も春の歌会が催される。


 相変わらず璋子は御簾の奥で、姿は見えない。


 璋子の信頼厚い堀河が、率先して歌を詠む。