ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛

「は? ファムファタール?

ってなんだっけ?」



「あれだろ、谷崎潤一郎の『痴人の愛』のさあ」



「ああ、あのロリコンのエロいやつか」



「そうそう。あれのヒロインの………」



「ナオミだろ?」



「それ! あのナオミみたいなのだろ、ファムファタールって」



「男を狂わせて破滅させる魔性の悪女、ってやつか」




彼らが勝手に盛り上がるのを、先生が「ちがうちがう!」と止めた。




「ファムファタールっていっても、魔性の女のほうじゃなくて、『運命の女』のほうだよ。

智恵子は俺の運命のひとなの。

だからお前ら、いくら智恵子がきれいで可愛いからって、狙っても無駄だからな!」




………なんて、恥ずかしい男だ。


友達に向かってまでそんなことを言うなんて。



私は呆れかえっていたけど、意外にも先生の友人たちは、驚いたように「へえ」と声を上げ、顔を見合わせている。