ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛








「香月さん、お口に合いました?」




会社の近くのイタリアンレストランで食事を終え、店の外に出たとき、佐野さんが人懐こい笑顔で声をかけてきた。




「うん、おいしかった。

料理もよかったし、ワインの種類も充実してたし。

いい店を教えてくれてありがとう」




微笑んで返すと、なぜか佐野さんが目を丸くした。




「………? なに? どうかした?」



「あっ、いえ、すみません。

香月さんがそんなふうに笑うの、初めて見たので………」




私は思わず両手で頬を押さえる。




「え? そんなふうって?」




訊ね返すと、佐野さんが




「うーん、なんていうか、ほんわか、みたいな」



「………ほんわか」




自分のキャラクターとはかけ離れすぎた単語に、驚きを隠せない。



私が『ほんわか』?


うそ。信じられない。



ほんわかっていうのは、そう、例えばああいう、間の抜けた、のほほんとした顔のことで…………




「智恵子ー」