ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛

本屋を出て、街を見回しながら並んで歩く。




「晩ご飯、何にしようか」



「そうですねえ」



「何か食べたいものある?」




男からそう訊かれたときには、いつもこう答えることにしている。




「居酒屋とか行きたいな」




先生が片眉を上げた。




「へえ? なんか意外だな。

智恵子って、居酒屋メニューとか好きなの?」




予想通りの反応に、私は満足する。




「ふつうに好きですよ。

枝豆とか焼鳥とか、ホッケの塩焼きとか。

おいしいじゃないですか」




あんまりお高くとまった女だと思われると、男のほうが敬遠するから、こういう庶民的なところも見せると効果的なのだ。




「俺、近くにおいしい居酒屋知ってるよ。

そこでいい?」



「はい」




すこし自分のペースを取り戻したような気がして、私は満足感に浸った。



やっぱり、私はこうでなくちゃ。