ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛

すると先生は悪戯っぽい笑みを浮かべ、ジーンズのポケットに手を差し込んだ。




「これが目に入らぬか」




そう言って私の目の前に突き出したのは、




「………図書カード?」




フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』が印刷されているカードが、二枚。




「現金もってなくても本だけは買えるように、図書カードはまとめて買ってあるんだよね」




自慢気に言っているけど、冷静に考えたら、かなりおかしい。



食料や日用品は手持ちのお金がなければ買えなくてもいいのに、本だけはいつでも買えるようにしてあるなんて。


人生において本が最優先事項……というか唯一の重要事項ってことか。




「………本当に本が好きなんですね」




半分呆れながら言うと、先生は嬉しそうに頬を緩めた。




「それなのに、どうして小説を書かないんですかねえ」



と少し嫌味っぽく言ってやると、先生は



「読むのと書くのは別ですからねえ」



とおどけた調子で返してきた。