ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛

「………智恵子、聞いてる?」




突然声のトーンを落とした先生の言葉に、私ははっと我に返った。




「あ、はい」




と反射的に答えてから、言い直す。




「いえ………すみません、ちょっとぼうっとしてました」




そう答えると、先生がぷっと噴き出した。




「ずいぶん正直だね。

そういうときは、ふつう、『聞いてます』って言うもんじゃない?」




先生は気を悪くした様子もなく、口許を軽く押さえて、くくくと笑っていた。



なんと答えればいいか分からず、私は黙って先生を見つめる。



それから、ごまかすように口を開いた。




「………すみません。

ええと、なんの話でしたっけ」




すると先生は何事もなかったように、映画の話に戻った。




「あの映画の原作の話」



「ああ、イギリス人作家のベストセラー小説ですよね」



「うん。読んだ?」




私はこくりと頷く。