ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛

「懐かしいなあ」




先生がくすくす笑う。




「まるで何年も前みたいに感じる」




まさかあの時は、こんなふうに二人で出かけたり、肩を並べて映画を観たりすることになるなんて、思いも寄らなかった。


人生って分からないものだ。





「ところで、昼間から飲むビールって、なんでこんなに贅沢な感じがするのかな」



「そうですね。私なんて、本当なら仕事中なのに……なんだか落ち着かないです」



「たまにはのんびりしたっていいんだよ」




先生は柔らかな声音で言い、私の顔を覗きこんだ。




「智恵子はいつも頑張ってるんだから」




その言い方があまりにも優しいので、柄にもなく、くすぐったいような気持ちになった。




「………べつに普通ですよ。

当たり前のことをしているだけです」



「そうかな? だってさ」



「ほら、もう始まりますよ」



「はいはい」




先生は笑いをこらえるように口許を覆って、スクリーンのほうを向いた。