ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛

朝比奈先生が何も言わないので、私は



「………これ、見ますか?」



と訊ねてみた。



「えっ、やだよ!」



先生が即座に答える。




「縁起でもない………智恵子を手篭めにしようとした人の作品なんて!」




自分の肩を抱くようにして、先生は首を横に振った。


冗談なのか本気なのか、よく分からなかった。




「それとも、智恵子はこれ見たいの?」



「いえ、まったく」



「よかった。じゃあ、あれにしようか」




先生は、最近よくプロモーションされている洋画を指差して、チケット売り場のほうに歩き出した。




「あ。俺、お金ないけど」




順番待ちをしているときに、先生が悪びれずに言った。



そうだった、と思い出す。


この人は、とんでもなく生活能力が低いのだった。




「私が払いますよ………というか、ATMの使い方、あとで教えます。

そういえば、通帳と印鑑は大丈夫だったんですか?」



「あ、返してくれたよ」



「それは良かった……預けた子が悪人じゃなくてよかったですね、ほんとに」



「俺は悪い子なんかと付き合わないよ」



「さいですか………あ、ほら、順番きましたよ」