私は覚えたての使用人通用口から外へ出ていった。
そこだと見つかる心配はないし、まさか出て行ったとは思わないだろうから。暫くは時間稼ぎになる。
けれど、どこへ行こう? 自宅へは必ず連絡が行く。それにこの婚約を解消するのに家へ戻っても意味はない。
誰でも良いから私を助けてくれそうな人。誰でも良い。誰か私を助けてくれる人が欲しい。
私はとにかく歩いた。少しでも屋敷から離れたいから。
走っても体力が持たない。だから歩けるだけ歩いた。
どうせ英輔は彼女との甘い時間に私のことは気づかないのだから。きっと明日の朝までにどこか遠くへ行ければ良い。
私がいなくなれば、きっと、英輔のお父さんだって分かってくれるはず。第一藤沢さんは英輔の家に似合いの家柄だしお嬢様だから。
両家にとっても一番幸せな結婚だから。
だけど、疲れた・・・・こんなに歩いたことはないから。
もう、足が痛くて歩けない。今、どこまで歩いて来たのだろう?
「君? 大丈夫? 顔色悪いよ。」
誰? 私にそんな言葉をかけるなんて。
それに、もう疲れて眠いから何も答えられないよ。
私は そのまま意識が遠くなっていった。
そんな私を心配した行きずりの男が私を抱きかかえてどこかへと連れて行ってくれた。



