この屋敷で暮らすようになって数日が過ぎた。
けれど、花嫁修業はまだ始まらない。まあ、私は結婚の意志は無いからそれはそれで構わない。
お披露目パーティで恥をかけば英輔も諦めるだろうから。きっと、この家にふさわしいあの彼女を父親に紹介するだろうから。
それまでの辛抱よ。
なのに、今日はお昼から指輪を買いに行くことになっている。
食事を済ませると待たせた車に乗り込んでジュエリーショップへと向かうかと思っていたら、車からショップのオーナーが降りてきた。
お店側から指輪を持参してきていたのだ。
屋敷の外に出たかったのに。息が詰まりそう。
応接間へと案内されて行くと、そこには素敵な眩しいばかりの指輪が並んでいた。
英輔も既にそこにいて指輪を眺めていた。
珍しいこともあるんだ。私の指輪を選んでくれているのかな?
そう思っていると型の違ったパターンの指輪が2種類準備されていた。
私に選ぶように言われたのは婚約指輪の並び。英輔はもう一つのおしゃれな指輪を見ていた。
それは到底婚約指輪とはかけ離れたデザイン指輪だ。
「好きなもの選んで良いよ。」
と、優しく言うその口で自分の女用の指輪を堂々と見るんだね。
溜息が出ると指輪なんてどうでも良く感じる。これも形式だから。それに、私が貰うものでもないし。結局はあの女が身に付けるもの。
どれを選んでも同じことよ。
「藤堂さんが適当に選んでいいわ。私気分が優れないから部屋に戻ります。」
そう言って私は指輪を選ばなかった。



