学校でさおりとゆっくり話が出来るのは、朝のHR前と授業の間の休憩時間だけ。


朝、学校へ着くとすぐにさおりに「藤沢愛華」とは何者かを聞いた。


「ええ?亜紀ってば、知らないの? 高校入学した時の有名な話しだよ。」


「有名な話し?」


さおりに言わせると、その「藤沢愛華」とは、高校に入ってからの英輔の彼女だそうだ。


英輔と同じ学年で、家柄も良くどこかの会社のご令嬢様。勉強も出来るしスポーツもそこそこ。なんと言っても美貌がその辺の生徒とは段違い。


核が違うお姫様という感じらしい。


本来ならば英輔の隣に座っているような人。だから、英輔はこの人を好きになった。


だけど、家のしきたりと家長命令の為、その恋人とは別れたらしい。


そんなお姫様のような恋人を振って、今一緒にいるのは一般家庭の下賎な女。


それが家長命令という理不尽な扱いに分不相応な私が相手だと誰もが同情の目を向けていた。


『藤堂様は可哀想だわ』

『藤沢様も可哀想だわ』


合い言葉みたいに言われているらしい。が、私の耳には入ってこない。


私の前では誰もがそのようなことを口にしない。藤堂家を恐れているから。