「俺の疑いは晴れたということだ。
だったら帰らせてもらうよ。」
そうだ、この人はもう関係ないだろう。
だけど、この先またいつか亜紀を欲しがることはないのだろうか?
「貴方はもう契約期間は終わったんだ。亜紀とはこれ以上の接触はしないでもらいたい。」
「それは亜紀次第だと思わないか?お互いに楽しむだけの愛人契約ならなんの問題もないだろう?
そういうお前にも愛華がいただろう。
亜紀と俺がそういう関係になって欲しくなければお前がしっかり亜紀を捕まえておくことだ。
俺に指図するのは筋違いだ。」
確かに俺が亜紀を捕まえておけばいいだけの話だ。井澤の言い分にも一理ある。
「俺より、そっちの男の方が深刻じゃないのか?
俺たちの間には恋愛感情はない。だが、そっちのヤツは違うだろう?
お前もとんでもない嫁もらって大変だろうが、これも家のため頑張るんだな。」
そんなことは十分分かっている。だから、会いたくもないお前たちとこうやって会っているんだ。
「英輔、一応奥方にはお祝いを言って帰る。報告だけはしておかないと、後で変に勘ぐられても困るからな。」
「亜紀は今いない」
お祝いだって? 夫の俺に言えば十分だろ?!
今更亜紀に会ってお祝い述べてどうするんだ。第一、愛人だったお前たちに祝ってもらうつもりはない。
「お出かけか?」
「・・・・俺から伝えておく」
「そうか。じゃあ、邪魔したな」
井澤は何かを感じとったようだった。
柴崎に案内されて玄関まで行く。
「何かあったのか? あの二人に?」
玄関で柴崎に質問をする井澤。
「いいえ、なにもございません」と、柴崎は当たり障りのない返事しかしない。
「亜紀は今、どこに住んでいる?
ここにはいないのだろう?」
「今日は外出なされています。」
「病院か?」
「はい」
明らかに疑いの目で見ていた井澤は何も言わずに帰っていった。



