「彼にも随分と迷惑をかけてしまったな。
俺がもっとしっかりしていれば、お前をここまで苦しめることはなかった。」
その言葉には何も言えない。私もまだあの年齢では藤堂家のお嫁さんになる覚悟はできていなかった。
だから、逃げることばかり考えていた。
今だってあまり変わりはないと思う。もし、今求婚されても同じ結果だったと思う。
ただ、あれから2年が過ぎ、英輔が私を大事に思う気持ちに心打たれたから、私を大切に扱ってくれる英輔がいるから今こうしてこの屋敷にも居られる。
英輔の気持ち次第で私も変わってくるのだとそう感じた。
私は英輔を嫌っていたんじゃなくて、嫌われていると思っていたからここに居ることが出来なかったんだ。
今になると素直にそう思えるようになった。
だから、私は藤沢愛華が嫌いだったんだ。あの女の人の存在が疎ましく思えて悲しかったんだ。
その悲しさから逃げる為に山崎を利用していたのだと、今初めて自分の気持ちが分かった。
私は英輔が好きだったのだと。
「顔色が少し悪い。休んだ方が良い。
それに、もう、終わったことを蒸し返すつもりはない。
これからは俺たちの未来のことを考えていこう。
俺たちとこの子の将来が少しでも良くなるように協力していこう。」
英輔は山崎とのことを責めることはしなかった。
それが逆に私には辛かった。罪悪感だけが残ってしまい私は行き場のない気持ちをどうしていいのか分からなくなる。
そして、妊娠している私の体を気づかう英輔に、日に日に申し訳なく思ってしまう。
それでも、いくら体の関係がなかったとはいえ英輔を裏切ってきたのには間違いないのだから、これからは英輔の支えになれるように努力したいと思った。



