くすっと笑うとその人は、私の顔の横の壁に手をつけ、顔をぐっと近づけた。
「お前、なんか面白いな。この学校には珍しいタイプだよ…」




目の前に立ちふさがる恭弥様ボイスのその人は、私の耳元で怪しく囁く。




「きゃ!!!」脳に直接響く憧れの声に全身の力が抜ける。
崩れ落ちる前に、逃げるようにその人を押しのけた。




何かよくわからないけど、この雰囲気逃げた方がいい。とにかく男の人と密室で二人なんて絶対よくない!!




扉に手をかけて勢いよく開けようとした。けど、忘れてた…
この扉すべりが悪いんだった…。必死にがちゃがちゃするんだけど、全然開こうとしない。




「待てよ、まだ話は終わってない。」
手をすっと掴まれると、そのまますっぽりその男の子に包まれてしまった。




「きゃーーーー!!!!」すごいスピードで鳥肌がたつ。オトコに抱きしめられてる!!




「離して!!気持ち悪い!!!」私は必死に逃れようとする。
そんなのお構いなしにその人は私のあごをすくいあげる。




「ふーん。暴れちゃって。なんか健気だね。
しかも、よく見たらすごい可愛いじゃん、あんた。面白い、なんか気に入った。」




あごを持ち上げられたままの私に、きれいな顔が近づいてくる。唇が重なりそうなのを感じた。
いやぁあああああぁあああ!!!




ガラガラガラ
「…迎えに来たよ。って、何やってんの拓海。」





あとわずかで奪われるって時に、突然の来訪者の登場で私の体は解放された。
すごい勢いで距離をとる私。「ア…アブナカッタ…。」





「ちっ、今イイトコだったのに。空気読めよ、凛。」
不機嫌そうな声で、返事をするその人。




「はいはい。で、そちらのお嬢様は?」
どうやらこちらも男の子らしい。凛と呼ばれた少年は私を見た。






私は心臓が止まるかと思った。だってその人は…
「え?恭弥様?」
そう。突然現れた彼は恭弥様と瓜二つの容姿をしていた。





ミルクティー色の柔らかい髪をなびかせながら、大きな二重まぶたからは色素のうすい瞳がのぞいてる。
完璧すぎる形の唇に、困ったような笑みを浮かべて立っているその人は、本当に二次元の世界から抜け出してきた王子様のようだった。




恭弥様が3次元に来たんだよ、と言われれば私は信じてしまうだろう。




「恭弥…って、もしかして君…」
「きゃぁあああああ!!!!」



私はパニックを起こして、返事もせずにその人の真横をすり抜けて逃げ出した。




どういうことなの、一体!?