VOICE

寝起きで少し不機嫌そうな彼はまた口を開いた。
「おい、俺の質問に答えろよ。聞こえてんのか?」




また心臓が跳ねる。間違いない。




「…恭弥様…」
「は?」
「あなた!恭弥様ね!!!!」
「は!?お前何言ってんの??」




「信じられない!!こんなところで会えるなんて!!」




私は我を忘れてその人に駆け寄った。だいぶ高い位置のソファに寝転んでいたようで、すごい角度で見上げることになる。




「私恭弥様の大ファンなんです!まさかこんなところでお会いできるなんて…」
私は目の端に涙を浮かべる。
間違いない、ここ何年か毎日聞いてきた声を聞き違えるはずがない!




「お前…」
その少年はじっと私を見つめたあと、ひらりとソファから飛び降りた。
だいぶ高い位置から飛び降りたのに、猫のように静かに着地した。





「…ねぇ、お前ってオタク?」
「へ?」いきなりの質問に間抜けな声が出る。





「だって、声だけで分かるなんて、ありえねーよ。しかも演じてないときの普段声なのに。…お前オタクだろ。」




じわじわと近づいてくるその人から、逃げるように後ずさる。




「い、いや、それは…あの…」





「原作『恋色ライフ!』で恭弥が初めて桃に告白したのは何話のどのシーン?」
「第42話!修学旅行編のラストシーンの夜の海!!」





「原作の恭弥とアニメ版の恭弥の変更点は?」
「マンガ版にはない下まつ毛の追加!」





「来月発売予定の新作ガチャガチャのシークレットキャラは誰?」
「メイド姿の女装版の恭弥様!絶対欲しい!!」




「桃ちゃんのお気に入りの下着は?」
「上下おそろいのくまさん模様の下着!!」




「…」
「…」





「完璧オタクじゃん。」
「それは…そうですね…。」認めるしかない。
しかも、私はいつのまにか壁際に追いやられていた。