「お疲れ!!二人ともよかったよ!!」
部長の声が響く。その瞬間、幕の内側でステージの灯りが付いた。




私は今度こそバッと顔を上げる。真っ赤な顔で自分の膝に眠る少年を見下ろす。

そこには、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、相良君が私を見上げていた。




「いやー、こっちから見てたらまるで本当にキスしてるみたいに美しかったよ!奈々、本当に色気のある芝居だったよ!!」

私は真っ赤になって口をパクパクさせる。




「ふふ…。相手役の僕も本当にキスされるんじゃないかって、期待しちゃったくらいでしたよ。」

相良君は上体を起こしながら、部長さんに応える。




「えっ!?」相良君はしーっと口元に指を当てて、ウインクする。

「わ……わ…私…」




「みんなー!幕の後ろに一列に並んで!カーテンコールに応えるわよ!!」

「はーい!!」部員たちはいっせいに整列を始める。



私もとにかく歩き出そうとしたけど…



ひょいっと相良君にお姫様抱っこされてしまう。

「え!?相良君!?」

「足。もう限界でしょ…。それと、僕のことは凛でいいよ。僕も奈々って呼ぶよ、さん付けめんどくさいなって思ってたから。」

「でも!」



「言い間違ったら、さっきのことみんなにバラしちゃうからね?」

王子様スマイルがなんとなく黒く見える…。



「うっ…ありがとね、凛…」

「よろしい、よくできました。」

歯を見せて甘く微笑まれる。そしてほんの一瞬耳打ちされる。



「あと、僕さっきのがファーストキスだったから。どうも奪っていただいてありがとう。」

「ひいぃいッ!?」

「ふふふ…。」真っ赤な私を心底面白そうに見下ろす凛。




心の整理もつかぬまま、ふたたび幕があき、カーテンコールに応える。




こうして、ハプニング続きの私たちの「ロミオとジュリエット」は無事に閉幕したのでした。
(無事ではなさすぎる…)