VOICE

「本当にここなの…?」
私は突き当りのオンボロ教室の前に立ち止まる。




下のきれいに改装された区域と違って、まだ木造建築の名残のあるこの階。
突き当りにはとても広そうな教室があるがどこにも『演劇部』とは書かれていない。





「と、とにかく!入ってみよう!」
私はそのボロボロの木の引き戸に手をかけた。




なかなかすべりの悪い扉で、開けて閉めるのに5分以上かかってしまった。




中に入ると、すごく埃っぽくて何度か咳き込む。使われてない倉庫のようなその部屋は、雑然として見通しが悪い。




「こ、こんにちは!今日から編入してきた二年の坂上といいます!どなたかいらっしゃいませんか?」




ためらいながらも、声をかけてみる。しーんと何の反応もない室内。
「…ここじゃ、ないよね…間違いなく。」




私はあきらめてその部屋を立ち去ろうとした。
その時背中で何か動く音がした。



「う…ん。凛か?…もう収録に行く時間…か…」
むにゃむにゃと寝起き交じりの声がする。




「…嘘。」その“声”に私は息をのんだ。





「…って、お前誰だ。どこから入った。」
雑然と積まれたソファの上から身を起こした彼が私を見つけた。




きれいな黒髪が少し目元にかかっているけど、それでもすごくかっこいい人だというのは分かった。切れ長のまっすぐな瞳がこちらを見ている。