VOICE

その時、優しい手が私を掴んだ。



「野に咲く可憐な花のようなお嬢様、どうか僕と一曲踊っていただけませんか?」

「えっ!?」

そのセリフも動きも台本と違う!私は思わず驚いて顔をあげる。
そこにいたのは相良君演じるロミオだった。




本当はロミオが現れる前にまだいくつかのセリフのやりとりがあったはず!周りの役者も動揺しているのが一瞬見えたけど、すぐに対応してくれる。





相良君は私の腰に手を回すと、客席からは見えない程度にそっと抱き上げてくれる。




「僕の脚に右足を乗せて、ドレスの丈で見えないから。」

小さい声で鋭く指示される。

私は言うとおりにヒールを彼の脚にのせる。右足は束の間、体重から解放される。




私を抱えたまま、相良君は上品にダンス続ける。これなら観客席にもばれないだろう…




痛みがひいて、頭がすっきりし、私は相良君の機転の利いたアドリブに合わせてセリフを紡ぐ。




「まぁ、大胆なお方…いきなり私の手をとるなんて。」

「ふふ…でも良かった…またお会いできて…」

「あ、あなたは、あの時の…!?」

「嬉しいな、知っていてもらえたなんて。」

「もちろんです、私もあなたのこと…」




ロミオの琥珀色の瞳に見つめられ、頬が自然と紅潮する。

もっと距離を詰めたい…もと彼のぬくもりを感じたい…私は無意識のうちに体をピタリと密着させていた。