深紅の幕が今上がる…。
「ロミオとジュリエット」





ここはヴェローナの街。

この街では、キャピュレット家とモンタギュー家という二つの旧家が長い間激しく対立していた。

キャピュレット家の一人娘ジュリエット。
そして、モンタギュー家の一人息子ロミオ。

出会ってはいけない二人が、瞳を交わしたその瞬間、物語は始まる…






私は早鐘のようになる心臓の鼓動に耳を澄ます。大きく息を吸って、吐き出す。

ナレーションの声もどこか別世界のように聞こえる。閉じていた瞼を開けると、スポットライトの中に踏み出した。






「たっくん…こっちこっち!」小声で佑季がよびかけてくる。

俺は薄暗い客席を横切って佑季の隣に腰かける。

「ななちゃん、間に合ったみたいだね…。」




俺は無言でうなずいて、ステージに目を向ける。どうか、何も起こらず無事に終わってくれ…、膝の上のこぶしを固く握った。
「あ、ななちゃん出てきたよ…。」





上手から美しいドレスに身を包んだ少女が軽やかに滑り出てくる。

「お母様、いったい私に何の御用ですか?」
澄んだ声が会場に響く。

その少女が口を開いた瞬間、空気が変わった。少し不機嫌そうなその令嬢は、一気に物語に引き込まれるほどの存在感を放っている





「ねぇねぇ。あのジュリエット役の子、編入してきたばかりの坂上の御令嬢らしいわよ…」

「恵まれた容姿と才能を持ち合わせた方なのね…」






ステージに立つ奈々は本当に美しく、澄んだ声は講堂全てを震わせるように力強い。

俺は気付かないうちに彼女の芝居にのめりこんでいた。