「奈々!!!」
雫が涙を流してかけよってくる。

「ごめんね、雫…心配かけて…」

「そんなことどうでもいいのよ!!何この傷!!」




「奈々!!それに凛…お前ら…どうしたんだよ!!」
拓海君も真っ青な顔で駆け寄ってくる。




「詳しい話は後!本番まであと10分切ってる!拓海はヘアメイク直して!松岡さんは衣裳の補修!!僕は怪我した右足の固定をする!!」




相良君はすばやく指示をとばして、私をどうにか舞台に立てる状態まで補修する。




「奈々!!!樹知らない!!?どこを探してもいないの!?」
部長が動転した様子で駆け込んでくる。



「樹先輩は…」

「部長さん、樹先輩は戻ってきません。」



あっという間に処置を終えた相良君が立ちあがる。

「え?どういうこと?樹がいないなら、この舞台は…」

「代わりに僕がやりますよ。ロミオ。」




「え?」その空間にいる全員が相良君を見つめる。




「シェークスピアの名作ですから、セリフなんて頭に入ってます。幸い、僕が読んでいたものと同じ版のようですし。」

「で…でも…」

「相良家の執事の血、信じていただけませんか?僕にできないことなんてないんですよ。」



大胆不敵な笑みに私たちは釘付けになってしまう。
部長は真っ白な唇を引き結ぶとうなずいた。



「分かったわ、ここまで来て中止になんてできない。相良君の力を貸して…。衣装はこっちだから。」

「拓海、あとは頼んだよ…」
相良君は一瞬だけ私を見つめると、部屋の外に消えた。