「…うっ…。」
激しい頭痛に目が覚める。頭を押さえようとしたときに、体の自由が奪われていることに気が付く。




「目覚めたかい…奈々。」
霞む視界で目の前にいる人にめをこらす。




「…樹先輩。」
樹先輩はいつもの優しい笑顔をうかべて、そこに腰かけていた。

少し違うのは本番用のメイクによって、より美しさが際立っていることくらい。




私は縛られている上半身を無理やり起こす。



「先輩、これはどういうことですか?」

「…さすが、名家の御令嬢というだけあって、誘拐・拉致には随分慣れているみたいだね。」

「…どうも。」




「今日は…僕らの本番だねえ…どんな『ロミオとジュリエット』になるのかな…」

樹先輩は小窓の外の青空を見ながら、なんてことない世間話をふってくる。



どこか不気味な落ち着きに、私は震えが走る。



「君は…編入してきてから随分多くの人から好かれているみたいだね?」
近づいてきた先輩に無理やり顎をすくわれる。




「僕は何度も警告したのに…いつまでも聞かない君が悪いんだ…君があの方を傷つけたから…」

「くっ…何のことですか?」

「もう手遅れだよ。」