VOICE

それから部員も全員揃って、部長から今日のスケジュールが伝えられる。




「場面2の参加者は全員体育館…と。」
体育館に向かいながら予定表を眺める。



主演の私はほとんどの場面に出番がある。そのため、合わせの練習が多いせいで、個人練習の時間はほとんどなかった。




セリフは家で覚えこんでいるけど、それでも全然練習量が足りない。




「…そろそろ、一条君にお願いして昼休みも練習させてもらわなきゃ…」

「一条がどうしたって?」

「きゃ!!」

「ごめん!びっくりさせた?」




隣で樹先輩が驚いた顔をしている。




「あ!すみません…考え事してて…」

「いや、突然声をかけた僕が悪いな。それで、一条がどうしたって?」




優しい声色の樹先輩。こうやって話すのは緊張しないと言えば嘘になる。

けど、パートナーである先輩に失礼な態度はとれない。私は精一杯の笑顔で話す。




「実は、一条君と毎日ご飯を食べる約束をしているんですけど、私、練習時間が足りなくて…。

明日からしばらくその約束をお休みにしてもらおうかなって考えていたんです。」




「そうだったんだ…もしかして一条と付き合ってるの?」

「いや!全然!!仲良くしてもらっているだけですよ!」

まさか、弱み握られて言うこと聞かされてるなんて…言えない…




「ふーん…。」
ふいに空気が冷たくなった気がしてゾクリとする。はっと樹先輩を見上げる。だけど、そこにあったのは穏やかないつもどおりの笑顔だった。




「さぁ、そろそろ体育館に急ごう。主演二人がいないと始まんないから。」
「はい!」



私たちはパタパタと廊下をダッシュする。
さっきの嫌な感じ…なんだったんだろう…。