VOICE

「奈々と、雫か。二人とも早いね。」

「こんにちは!!樹先輩!」私たちは慌てて背筋を正す。




「何か、ガールズトークの邪魔しちゃった感じかな?」

「いえいえ!とんでもないです!先輩もお早いですね?」
雫がぱたぱたと駆け寄る。




この方は、演劇部3年の先輩。月宮樹(ツキミヤタツキ)先輩です。

爽やかな印象で中性的な顔立ちがとても人気の、演劇部一のイケメンさんなのです。




「奈々ー」

「はい?」

「僕のウォーミングアップが終わったら、舞踏会のダンスシーン、もう一度確認してくれないか?テスト明けで少し心配なんだ…」

「もちろんです!私もそこ、気になっていたんです!」




そして、今度の文化祭で演劇部が行う『ロミオとジュリエット』のロミオ役を務めるのが樹先輩。

ジュリエットを務めるのが、図々しくも新入部員のこの私。坂上奈々なのです…





入部の時に、私の演じた1フレーズに感動した部長さん。

あっという間に私主演で「ロミオとジュリエット」の上演を決め、新参者の私が、なんと大舞台のヒロインになることが決まったのです。

うう…思わぬ大役に震えます…。




「奈々。もうちょっと寄って、ターンしにくいから…」

「はい」




私の男嫌いもお芝居に関しては別。より美しく魅せられるように、ピタリと樹先輩に寄り添う。




スローテンポのワルツを聴きながら、ステップを踏む。テスト前に何度も練習したかいあって、ようやく人に見てもらえるレベルになっていた。




「よし、あとはまた空き時間にね。」
樹先輩は大きく息を吐いた。