VOICE

「監督。私もイメージがこぼれないうちに録りたいです。今、いいですか?」

「よし、TAKU君も連続だがいけるかい。」

「俺は大丈夫です。すぐに行きましょう。」




真奈美さんは私にきらっとした笑みを見せて、颯爽とブースに入っていく。




「奈々。俺もいい刺激もらった。今度は俺の芝居しっかり観とけよ。」

一条君は私に耳打ちすると、あっという間にブースの戻っていった。





再び収録が始まる…プロ二人の芝居は空気を裂くような緊張感があって、外にいても身じろぎすらできなくなる。




ふと、顔に冷たい感触があたる。

「へ?」

「はい。お茶。汗かいてたみたいだし、少し休憩しなよ。」

相良君に連れられて、私は少し離れたところのソファに腰かけた。





「君、演劇経験あったの?」ぽつりと相良君が言う。

「うん。一応ね…小さいころからお父さんの影響で。ミュージカルとか舞台によく連れて行ってもらって、それから、お芝居に興味をもつようになって…」




受け取ったペットボトルからコクリとお茶を飲む。
…だいぶ乾いていたようで、すごくおいしかった。




「そっか…君も表現者…なんだね…。」

「うん?」

「何でもない。僕、正直、何で拓海はオタクなんかに興味を持ったのかよく分からなかったんだけど…」




私は口からお茶を吹き出しそうになる。




「ふふ、でも、ちょっとわかった気がする。君ってすごく面白い人なんだね。」

王子様のような少年は、ハンカチを取り出すと私の口元を優しくぬぐってくれた。





「あ、ありがと…。」

「…どうやら、直接触れなければ君に拒否されないみたいだね。よかった。」





相良君は嬉しそうに歯を見せる。
そのきれいすぎる笑顔にどうしようもなく恥ずかしくなってしまう…、図らずも顔が赤くなるのを感じる。